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ほんのむしがなぞったことば

2009-02-03鮫鮫鮫

[]#362

俺を欺し、俺を錯乱させ、まどわす海。
 だが、俺は知っている。ふざけてはこまります。海をほのじろくして浮上がってくるもの。奈落だ。正体は、鮫のやつだ。
鮫は、ほそい菱形の鼻の穴で、
俺のからだをそっと物色する。

奴らは一斉にいう。
友情だ。平和だ。社会愛だ。
奴らはそして縦陣をつくる。それは法律だ。与論だ。人間価値だ。
糞、又、そこで、俺達はバラバラになるんだ。(p.252)
鮫。
鮫は、しかし、動こうとはしない。
奴らは、トッペンのようなほそい眼つきで、俺たちの方を、藪に睨んでいる。
どうせ、手前は餌食だよといわぬばかりのつらつきだが、いまは奴ら、からだをうごかすのも大儀なくらい、腹がいっぱいなのだ。
奴らの胃のなかには、人間のうでや足が、不消化のまゝでごろごろしている。
鮫の奴は、順ぐりに、俺へ尻をむける。

そのからだにはところどころ青錆が浮いている。
破れたブリキ煙突のように、
凹んだり、歪んだりして、
なかには、あちらこちらにポツポツと、
銃弾の穴があいているのもある。
そして、あたらしいペンキがぷんぷん臭っている。
糞、又、そこで、俺達はバラバラになるんだ。

鮫。
鮫。
鮫。
奴らを詛おう。奴らを破壊しよう。
さもなければ、奴らが俺たちを皆喰うつもりだ。(p.254-256)


アジア無銭旅行 (ランティエ叢書 (18))

*1:「鮫」。