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ほんのむしがなぞったことば

2009-02-05霧の中

[]#364

僧正は外国に住んでいたころ自分がミサを行なっていた、建立まもない白い聖堂のことを思い出した。暖かい海のざわめきがよみがえってきた。住いは天井が高くて明るい部屋ばかり5部屋もあって、書斎には新しい机と大きな書棚がそなわっていた。たくさん本を読んで、たくさん書き物もした。故郷が恋しかったことも思い出した。毎日、彼の窓辺に盲目の女乞食がやって来て、恋の歌をうたい、ギターを弾いてくれたものだった。ギターを聞きながら彼が思い出すのは過ぎた昔のことばかりだった。8年が過ぎて、彼はロシアへ呼び戻され、今はこうして副主教の地位におさまっている。過去はどこか遠くの霧の中へ去ってしまい、まるで夢を見たようだ……(p.31-32)


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